阪口 周吉
日本静脈学会名誉会長
浜松医科大学名誉教授

 静脈学(Phlebology)の歴史は極めて古く,ヒポクラテス当時より記載がみられるが,以後各時代を通じて静脈瘤,血栓症を中心に主として欧州においてこれらを専門とするphlebologistによって発展してきた.
 1958年,仏国の提唱によりUnion Internationale de Phlebologieが結成され,漸次南米,英,北米なども加わり現在では世界の静脈学の中枢として機能している.1977年,ブエノスアイレスで開かれたUnionの総会に参加した筆者が,初めて日本の代表として理事会に参加して正式にUnionに加盟した.しかし,その受け皿となる集団が当時わが国には存在しなかった.これはわが国では純粋のphlebologistが育つ環境がなく,血管外科医が兼ねて行う仕組みであった故に,静脈学は日陰の存在とみられてきたためである.しかし実地臨床のうえでは静脈疾患はかなり多く取り扱われていたこともあり,若手の学者からも要望が起こりつつあった.このような内外の情勢に鑑み,わが国でも独自の集会を持つべきであるとの意見が強まり,1981年,浜松市において「静脈疾患研究会」の名前で第 1 回総会を発足し,以後毎年各地で総会を開き,会員数の増加をみた.1989年には「日本静脈学会」と改称し,会誌「静脈学」を発行するとともに今日まで名実ともにJapanese Society of Phlebologyの役割をも担ってきた.
 このような業績を評価されて,1986年には第 9 回のUnionの総会を筆者が主催して京都国際会議場で開催し,290の演題,599名(うち外国より390名)の参加をみたが,これはアジアでは初めての開催であり,わが国の静脈学研究者へ大きな刺激を与えたものと考えられる.
 以上のような沿革から,今後わが国の静脈学は日本静脈学会,国際静脈学会とそれらの機関誌を中心に発展していく一連の流れが出来上がったのであるが,惜しむらくはこれらの参加者がほとんど外科医であり,内科をはじめとする各科,特に基礎学者の参加がまだ極めて少ないことである.静脈は動脈と同じくすべての臓器循環および心臓に帰来する全身循環に関与するものであるから,これらの研究を発展させるためにも各科研究者の参加を渇望するものである.またわが国では従来から癌切除に伴う臓器の静脈再建外科が発達する機運をみせているが,さらにInterventional Radiologyの活用などとともにこれらの領域の特色を伸ばし,世界に情報を発信していくことも大切であろうと考えられる.